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例えば深澤さんや舘様をはじめ、メンバー御用達であるハイブランドは、持つべき人が持つからカッコイイのであってそれを自分が…と考えるとどうにも服や小物に負けてしまいそうで手が出せない。

うむむ、なんて唸りながら足元に視線を落としたら、土埃で汚れ、所々擦れてしまったスラックスが目に入る。


あ、あったわ。
早急に欲しいもの、あるじゃん。


「そしたら新しいスーツ欲しいです。これボロボロになってもう着れないし、実はリクルートスーツだったんで…もう替え時かなって」

半分は冗談のつもりだった。
でも田ノ上さんは私の申し出を聞いた瞬間から表情を明るくしている。
ただ笑顔になるだけなら良いんだけど、その顔がどうにも時計を買ってもらった時の深澤さん、佐久間さん、渡辺さんの爆買いスリーを連想させて不安になった。


スーツと一口に言っても、デザインや素材、もちろん値段もピンキリだよー!と、最近三十歳になった記念にフルオーダースーツを作ったばかりの佐久間さんが言ってたっけ。

現場に出るマネージャーのなかで、リクルートスーツを着ていたのは私だけだった。
マネージャーに服装の指定があるわけじゃないが、社会人としてのTPOは当然わきまえなければならない。

思い返してみると、他のグループのマネージャーさんを含め、スーツを着る現場に赴く時の彼らは、皺一つないパリっとピシッとした上質なものを着ていたっけ。


……それってつまり、なかなかの値段がするものではなかろうか。

だとしたら、非常にまずいのでは。

気が付いた時にはすでに手遅れだった。
田ノ上さんは私を見て何度も嬉しそうに頷きながら「怪我が治ったら時間作ってスーツ作りに行こうね!」と意気込んでいる。

やっぱり、オーダーなのね。


ユニクロのスーツでも十分なのに。
隣に並ぶ阿部さんにチラッと視線を投げかけ助けを求めれば、「良かったねぇ」と呑気な顔でこっちを見て微笑んでいた。




「お待たせしてすみませんでした!楽屋までご案内しますね」

絶妙なタイミングでスタッフさんが駆け寄って来たかと思えば、同時に田ノ上さんだけが別行動になることを告げられた。
スタッフさんが直前まで連絡をとっていたのは、私たちより先に現場を後にしたテレビ局の偉い人だったようで、田ノ上さんはその人達に呼ばれ、これからいわゆる「大人の交渉」をしてくるとのこと。


大人の交渉──つまり、根回し
濁された言葉に、鳩尾のあたりに自然と力が入った。

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作者名:泥濘 | 作成日時:2024年4月16日 12時

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