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何があるかなーと、声を弾ませながらお弁当を物色し始める阿部さんを横目に、私もパンプスを脱いで畳に上がると、邪魔にならないように部屋の奥の隅っこに置いていたコートを手に取る。
どうせこのあとは車に乗るだけだし、コートは羽織らずに手で持っていくか…と考えていると、目の前にずいっと二つの弁当が差し出された。


「焼き鳥弁当か生姜焼き弁当。お茶かオレンジ」
「阿部さんは?」
「焼き鳥弁当のお茶にした」
「じゃあ生姜焼きのお茶で」


阿部さんからお弁当と紙パックのお茶を受け取ると、ちょっと考えてから、結局それも一緒にリュックの空いているスペースにねじ込んだ。


テーブルにはお弁当とは別に阿部さんの勉強グッズが広げられており、隙間時間に勉強していた様子が窺える。

普段から楽屋だったり、共有スペースを使う時には整理整頓を人一倍気遣う阿部さんなのに、テキストやペンが投げ出されたように散らばっているなんて珍しいと思ったけど、そうなった理由は他でもない私のせいで。
きっと吉野さんが楽屋に駆け込んで来たり、別現場から飛んで来た田ノ上さんと合流したりで、それどころじゃなかったんだろうなと容易に想像がついた。

それだけ慌ててくれたのか…と嬉しく思う反面、阿部さんが散らかったものを丁寧に片付ける姿は、謝ってもしょうがない、私のせいじゃないとは分かっていても、申し訳なさと罪悪感が込み上げて鳩尾のあたりが苦しくなる。
それでも気丈に振る舞ってみせるのは、阿部さんを心配させたくないと思う私の勝手な強がりだ。


「阿部さんもう行けますか?」
「んーゴメン、もうちょっと待って欲しいかも」
「はーい」


この騒動のなか奇跡的に無傷だった腕時計に視線を落とすと、まだ18時を少し過ぎたところ。
ゆっくり帰ったとしても19時前には家に着いてしまう。
日によって帰宅時間はバラバラだが、こんなに早く家に帰ることはあまりない。

仕事が早めに終わったら終わったで、買い物や買い出しをして寄り道してたから当然か。
……さすがに今日は家で大人しくするけど。


テーブルの近くで支度を続けている阿部さんに気を使わせないように、室内に忘れ物がないかを確認しながら楽屋入り口までこっそり移動すると、段差のある小上がりの縁に静かに腰かけた。

腕の傷を刺激しないようにリュックをゆっくりとした動作で背負い、コートを左手に持ち抱える。
それから誰も見てないのをいいことに、行儀悪く足でパンプスを引き寄せた。

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作者名:泥濘 | 作成日時:2024年4月16日 12時

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